イタリア 戦艦 の特徴
1910年代のイタリア戦艦は、機関室を船体前部と後部に分け、その中間点に主砲を配置したため、間隔の広がった煙突と船体中央部に配置された主砲が特徴です。
イタリアはしばらく戦艦を建造しませんでしたが、4万トンを超えるヴィットリオ・ヴェネット級を4隻建造(1隻は中断)するなど、その海軍力は侮れないものでした。第一次大戦型の戦艦は1930年代に大規模な近代化改装をほどこされ、海軍戦力を充実させることになりました。
イタリアが枢軸国勢力の中で早めに降伏したことなども絡み、この勢力の中では多くの戦艦が終戦まで生存しました。これらは賠償艦として戦勝国に引き渡されたのち1950年代中ごろまで運用されていました。
イタリア 戦艦 ダンテ・アリギエーリ DANTE ALIGHIERI
イタリア海軍が建造した初の弩級戦艦。登場がドレッドノートの就役から7年後ということもあり、砲門数や速力の点でこれを大きく超える性能を持つ艦として登場した。
建造艦はネームシップ1隻のみであり、本艦の運用データを蓄積して次の改良艦に活かすことが建造目的だった。
●攻撃力
本艦は史上初の3連装砲搭載艦として送り出された。主砲は船体中央線上に全て配置され、前部艦橋前と後部艦橋の後ろに一基ずつ、船体中央部に2基が配置された。背負い式が多かった他国の戦艦に比べて艦首方向と艦尾方向に砲口を向けられない砲が多かった。なお船首配置の砲塔と前部艦橋は、一段の船首楼上に置かれている。
副砲の配置も変わっており、船体側面の砲郭に収めるものと砲塔式の2タイプのものが搭載された。これら12cm砲は前部で16門搭載となっている。他の副砲としては、7.6cm砲が船体各所に搭載されている。
ユニークな点として、20世紀の軍艦でありながら体当たりして損傷を与える衝角が装備されており、水面下の艦首は鋭い形状をしている。
●速力
機械室は船体中央部の砲塔の間に設けられ、ボイラーは艦首と艦尾の砲塔間に配置された。このため煙突の間隔が非常に広くなっている。
煙突は前部艦橋に組み込まれるように2本、その後ろにマストをまたいで全部で3本装備された。
速力は試験時に24.2ノットの記録を出しており、登場時には速力に優れた戦艦だった。
12cm50口径連装砲 22基、単装砲 12基
7.6cm40口径単装砲 4基
45cm水中魚雷発射管 3門
Armament: 4× triple 305mm/46caliber gun turret
22× 120mm/50caliber twin gun and
12× same single-mounted gun
4× 76mm/40caliber gun
3× 450mm torpedo
〇 装甲:舷側 254mm
甲板 38mm
司令塔 305mm
砲塔前面 254mm
Armor:belt 254mm
deck 38mm
conning tower 305mm
turret(front) 254mm
〇 排水量:19,552 t
Displacement
〇 全長:168.1 m
Length
〇 全幅:26.6 m
Beam
〇 機関: ブレキンデン式混焼ボイラー ×16
重油ボイラー ×7
パーソンズ式蒸気タービン 3組4軸
Propulsion: 23× Boiler & Parsons Steam Turbine
〇 機関出力:32,200 hp
Power
〇 速力:23 ノット
Speed:23 Knots
〇 乗員数:981 名
Crew
近代化改装
10年ほどで解体されたため、改装内容は控えめ。
●主砲の最大発射角を20度にした結果、射程を24,000mに延長した。また7.5cm単装高角砲を追加装備し、対空能力を強化した。
●前部の煙突に挟まれるように配置されていたシンプルなマストは三脚式となり、艦橋後部に移設された上で、射撃指揮所が設置された。
イタリア 戦艦 コンテ・ディ・カブール 級 CONTE DI CAVOUR CLASS
ダンテ・アリギエーリにより戦艦の運用ノウハウを得たイタリア海軍が建造した弩級戦艦。このクラスにより、イタリア海軍は戦艦の本格配備を開始した。
大砲の配置方式の変更、衝角の廃止、船首楼船体(船首側の甲板が高い)の採用がダンテアリギエーリとの違いである。
船首形状は、水面に近づくほど外側に傾斜するクリーパー型船首となっている。
●攻撃力
主砲は三連装砲と連装砲が組み合わされたものとなり、前艦橋および後艦橋の砲塔群は背負い式になっていた。5基装備された砲塔のうち三連装砲は3基であり最前部、最後部、船体中心におかれた。
艦橋に近い砲塔は連装砲であり、砲撃で生じる爆風が艦橋に与える影響や重量バランスを考えてこのような配置としている。
副砲の12cm砲は全て舷側の砲郭に収められ、各国の戦艦に近い配置となった。また更に小口径の7.6cm砲は、主砲塔の上に配置していた。
第一次大戦の戦艦の例にもれず、本級は水中魚雷発射管も装備していた。
●防御力
舷側は船体中央部の水線高さの舷側装甲が250mmで最も厚い。
砲塔周りも1割程度厚みが増している。
甲板の装甲は3層とし、上甲板、中甲板、下甲板(防御甲板)を合計すると100mm程度の厚みがあった。なお、最も厚かったのは上甲板のものだった。
●速力
機関の配置は前級とほぼ同じであり、中央砲塔部分をさけてボイラー室が距離を隔てて分かれていたため、煙突の配置も同様となった他、大型の煙突2基が装備された。
しかしボイラーの配置数が減ったため出力は若干弱まり、速力も低下している。
ボイラーは前級と同じく、石炭燃焼と重油燃焼の混載であった。
煙突は前部艦橋後ろに1本、その後ろの砲塔をまたいで1本の計二本が設置された。 〇 装甲:舷側 250mm 〇 排水量:22,992 t 〇 全長:176 m 〇 全幅:28.0 m 〇 機関: ブレキンデン式混焼ボイラー ×12と重油ボイラー ×8、 〇 機関出力:31,000 hp 〇 速力:21.5 ノット 〇 乗員数:1,000 名
12cm50口径単装砲 18基
7.6cm50口径単装砲 13基
45cm水中魚雷発射管 3門
Armament:3× triple 305mm/46caliber and same twin gun turret
18× 120mm/50caliber gun
13× 76mm/50caliber gun
3× 450mm torpedo
甲板 80mm
司令塔 280mm
砲塔前面 280mm
バーベット 280mm
Armor:belt 250mm
deck 80mm
conning tower 280mm
turret(front) 280mm
barbets 280mm
Displacement
Length
Beam
パーソンズ式蒸気タービン 4軸
Propulsion: 20× Boiler & 4× Parsons steam turbine
Power
Speed:21.5 Knots
Crew
近代化改装
本級はきわめて大規模な改装を施したことで有名であり、改装後に第一次大戦時代の面影はない。艦首を10m延長した上で、傾斜を大きくしているため鋭い印象を与える艦になった。
■攻撃力の増加
●主砲の口径を30.5cm→32cmに拡削。発射角を27度としたことで射程を28,000mに延長した。中央部の3連装砲は撤去され、煙突や副砲群を配置した。
●船首楼の砲郭に装備していた副砲は全撤去。代わりに12cm50口径連装砲を船体中央部の甲板上に、10cm47口径連装高角砲を砲塔後部の甲板に搭載した。
●前部艦橋は更新され、円筒型のものが設置された。この円筒は指揮所のある部分が広がった段となっている。頭頂部には射撃指揮所、方位盤、測距儀が装備された。
●対空機銃も新たに追加され、37mm機銃と13.2mm機銃が砲塔上、後部艦橋、煙突周囲の甲板に装備された。
■防御力の増加
●防御力は水中防御が重要視されており、後に登場するヴィットリオ・ヴェネトでも採用されるブリエーゼ式防御構造を組み込んでいる。この構造は、弾薬庫と機関部の防御の向上を狙っている。
●水平防御用の装甲も厚みを増している。
■推進力の増加
●船体中央部の砲塔が撤去されたことで機関配置が合理化され、ボイラーは船体中央部にまとめて配置された。機械室は3室→2室に減少、ボイラー室を前後で挟み込む形となった。煙突は船体中央部に二つの煙突を狭い間隔で設置している。
●ボイラーも一新され、新型の重油ボイラー8基が装備された。出力は31,000hp→93,000hpと3倍に強化されている。
●タービン軸数は4→2に減少。軸数は半分になったものの、改装前とは比較にならないほど大型のスクリュープロペラを採用し、28ノットの速力を生み出した。
コンテ・ディ・カブール級 建造艦
■ コンテ・ディ・カブール / Conte di Cavour:1915年4月就役。1945年航空機攻撃により沈没。
■ カイオ・ジュリオ・チェザーレ / Caio Giulio Cesare:1914年5月就役。終戦まで生存し、大戦終結後にソ連に賠償艦として引き渡され、「ノヴォローシスク」と名を改めた。1955年原因不明の爆発事故を起こし沈没。
■ レオナルド・ダ・ヴィンチ / Leonard da Vinci:1914年5月就役。1916年8月に戦没。
イタリア 戦艦 カイオ・デュイリオ 級 CAIO DUILIO CLASS
コンテ・ディ・カブール級のマイナーチェンジと言えるクラス。特に副砲を強化しており、15.2cm砲を船体側面の砲郭に搭載した。
また船首楼は短くなり、前艦橋の部分までとなっているが、それ以外は前級とほぼ同じである。
このクラスから後、イタリア海軍はしばらくの間戦艦を建造しなかった。
●攻撃力
前級と同じく主砲は三連装砲と連装砲の組み合わせで配置も同じだった。
副砲は前級の12cm砲から強化され、15.2cm砲を採用してこれを船首楼の砲郭と、第二甲板側面の砲郭に配置した。
また水雷艇などの小型船を攻撃するための7.6cm砲も引き続き砲塔上に配置されている。
●防御力
舷側は船体中央部の水線高さの舷側装甲が250mmで最も厚い。装甲の中で最も重厚なのは、砲塔前面で280mmだった。
装甲の配置はコンテ・ディ・カブール級と変わっていない。
●速力 〇 装甲:舷側 250mm Armor:belt 250mm 〇 排水量:22,956 t 〇 全長:176.0 m 〇 全幅:28.0 m 〇 機関: ヤーロー式混焼ボイラー ×12 〇 機関出力:32,000 hp 〇 速力:21 ノット 〇 乗員数:1,000 名
ダンテ・アリギエーリの頃から変わらず、船体中央の主砲を避けるように機関を配置して、間隔の開いた煙突を配置するレイアウトをとった。
15.2cm45口径単装砲 16基
7.6cm50口径単装砲 13基
45cm水中魚雷発射管 3門
Armament:3× triple 305mm/46caliber and same twin gun turret
16× 152mm/45caliber gun
13× 76mm gun
3× 450mm torpedo
甲板 97mm
司令塔 280mm
砲塔前面 280mm
バーベット 280mm
deck 97mm
conning tower 280mm
turret(front) 280mm
barbets 280mm
Displacement
Length
Beam
重油ボイラー ×8
パーソンズ式蒸気タービン 4軸
Propulsion: 20× Boiler & 4× Parsons steam turbine
Power
Speed:21 Knots
Crew
近代化改装
前級であるコンテ・ディ・カブール級と同じ内容で近代化改装が施されているため、改装後の艦容もほぼ同じとなっている。ここでは前級と異なる点のみ記述する。
■攻撃力の増加
●副砲を13.5cm45口径3連装砲に拡大して、前艦橋側面に4基配置した。また9cm50口径単装砲を10基採用し、煙突側面に配置した。以前の砲郭は廃止した。
●対空気銃は37mm54口径連装機銃6基とその単装機銃を3基装備。その上で20mm連装機銃を8基装備した。
●前部艦橋はコンテ・ディ・カブール級と似た円筒型のものが設置されたが、更に円筒の構造物が追加されて高さを増している。
■推進力の増加
●新型の重油ボイラー8基を装備。出力は32,000hp→85,000hpと大幅に上昇。ただしコンテ・ディ・カブール級より若干少ない。
●タービン軸数、大型スクリュープロペラといった要素は同じだが、速力は21ノット→27ノットと若干遅い。
カイオ・デュイリオ級 建造艦
■ カイオ・デュイリオ / Caio Duilio:1915年5月に就役し、終戦まで生存後、1956年9月に除籍。1958年に解体。
■ アンドレア・ドリア / Andrea Doria:1916年3月就役にし、終戦まで生存後、1956年11月に除籍。1958年に解体。
イタリア 戦艦 ヴィットリオ・ヴェネト 級 VITTORIO VENETO CLASS
Artilleria de 381mm – Acorazado Vittorio Veneto (1942) ©2016 Panzerargentino
フランスのダンケルク級やリシュリュー級への対抗として開発されたクラス。20年近くの沈黙を破り建造されたものは、4万トンを超える戦艦だった。第一次大戦時代のイタリア艦とはまったく異なる艦容であり、各国で建造された同時期の戦艦の特徴を持っている。
長船型船首楼船体と呼ばれる、後部主砲までカバーした甲板が外見上の特徴となっている。船首楼甲板から一段下がった艦尾には、水上機を運用するための設備が置かれていた。
船体形状や防御構造は、コンテ・ディ・カブール級やカイオ・デュイリオ級を改装した姿によく似ており、イタリア海軍の技術の蓄積を反映して建造された艦といえる。
●攻撃力
主砲には38.1cm50口径3連装砲を3基採用して艦首に背負い式に2基、艦尾に1基配置するレイアウトをとった。この主砲は発射角35度で最大射程が42,800mに達する長射程砲であり、同じく長射程砲を積んでいたフランスのリシュリュー級に対抗する能力が与えられた。
副砲は15.2cm3連装砲を採用してこれを前部艦橋側面に2基、後部主砲側面に2基配置した。
高角砲は9cm単装高角砲を採用。12基が船体中央部の煙突側面に配置された。
機銃は37mm連装機銃が主砲上部と煙突横に8基設置され、その単装機銃が艦首に一直線に4基設置された。また20mm連装機銃が煙突周辺、前部副砲上、主砲横に合計20基設置された。
艦橋の上部には主射撃指揮所、測的所、司令部観測所といった火器管制に関する設備が備えられた。
●防御力
38.1cm砲を積んだ艦らしく、前級より装甲厚が100mm増加するなど強化が著しい。
舷側装甲には350mmの厚みが施された。この装甲は上部になるほど外側に傾斜していた。その内側に一次隔壁として36mm、二次隔壁として24mmの装甲が張られた。二次隔壁は上部になるほど内側に傾斜していた。
装甲甲板は3層で、上甲板に36mm、中甲板で24mm、最も厚い下甲板では100mmの装甲が張られた。下甲板は特に弾薬庫区画では162mmの厚みとなっていた。
単純な厚みとして最大なのは砲塔前面で、380mmの厚みが施された。
そしてイタリア独自の防御構造として、水中爆発の衝撃を減らすプリエーゼ式防御構造を採用した。中心に巨大な円管があり、その周囲を小径の円管で囲った構造だった。燃料である重油が入っており、それを消費した場合海水を注入して機能させた。
プリエーゼ式防御構造は防御区画の外側に置かれたが、ここは他国がバルジとして構成する部分だった。
●速力
ボイラー室はひとつにまとめられており、その前後に機械室が置かれた。ボイラー8基の出力は140,000馬力を発生し、これを4軸で駆動した。さらに造波抵抗を抑えるためバルバスバウ(球状船首)を採用した上で適切な喫水の設計も施された。その結果他国の高速戦艦と比べても見劣りしない30ノットの速力を獲得している。
煙突は船体中央に密接して2本が設置された。
15.2cm55口径3連装砲 4基
9cm45口径単装高角砲 12基
37mm54口径連装機銃 8基と単装機銃 4基
20mm65口径連装機銃 20基
射出機 1基と水上偵察機 3機
Armament:3× quadruple 381mm/50caliber guns
4× triple 152mm/55caliber gun turrets
12× 90mm/45caliber anti air gun
8× twin 37mm/54caliber machingun and 4× same single mounted machingun
20× twin 20mm/65caliber machin gun
1× Catapult and 3× Reconnaissance floatplane
〇 装甲:舷側 350mm
甲板 207mm
司令塔 260mm
砲塔前面 380mm
バーベット 350mm
Armor:belt 350mm
deck 270mm
conning tower 260mm
turret(front) 380mm
barbets 350mm
〇 排水量:40,517 t
Displacement
〇 全長:237.8 m
Length
〇 全幅:32.8 m
Beam
〇 機関: ヤーロー式重油ボイラー ×8、ブルッゾ式蒸気タービン 4軸
Propulsion: 8× Boiler & 4× steam turbine
〇 機関出力:140,000 hp
Power
〇 速力:30 ノット
Speed:30 Knots
〇 乗員数:1,830 名
Crew
ヴィットリオ・ヴェネト級 建造艦
■ ヴィットリオ・ヴェネト / Vittorio Veneto:1940年4月就役。終戦まで生存後、1948年2月に除籍。
■ リットリオ / Littorio:1940年5月就役。終戦まで生存し、1948年にアメリカへの賠償艦として引渡しを待つ間に解体処分とされた。
■ ローマ / Roma:1942年6月就役。更なる航洋性を得るための改良が施されていた。1943年9月にドイツ軍機から新兵器(誘導爆弾)による攻撃を受けて爆沈。
■ インペロ / Impero:1940年6月建造中止。1945年2月に沈没。
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